民法改正と交通事故の損害賠償実務への影響
1 はじめに
改正民法が、令和2年4月1日から施行されますが、交通事故の損害賠償実務には、どのような影響を与えるのでしょうか。
改正民法では、遅延損害金の利率が変更になることとなり、その結果、ライプニッツ計数の利率、遅延損害金の利率に影響を与えます。
また、消滅時効期間について、改正がされました。
2 ライプニッツ計数の利率
(1)ライプニッツ計数とは
ライプニッツ計数とは、中間利息の控除の計算方法です。
1年後の1万円と現在の1万円では、経済的な価値が異なることが通常です。
後遺障害(後遺症)の逸失利益の計算において、基礎収入を300万円、労働能力喪失率を5パーセント、労働能力喪失期間を3年間とすると、逸失利益の計算は、300万円×0.05×3となるものではありません。
従前、実務においては、交通事故の後遺障害(後遺症)の逸失利益の計算において、年5パーセントのライプニッツ計数を使用して計算をしてきました。
この場合、300万円×0.05×2.7232という計算になります。
(2)民法改正の影響
民法施行日においては、遅延損害金の利率は、3パーセントとなります。
そうすると、ライプニッツ計数についても、年3パーセントを基準として、ライプニッツ計数を決めます。
その結果、年5パーセントの場合と比べて、逸失利益の金額が増えることとなります。
3 遅延損害金の利率
交通事故の損害賠償請求の訴訟の場合、交通事故日からの遅延損害金を付して請求をすることが通常です。
その遅延損害金の利率が、改正民法では、当初、年3パーセントになります。
4 消滅時効期間
(1)従前の規定
従前は、不法行為による損害賠償の請求権について、民法724条は、「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知ったときから3年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為のときから20年を経過したときも、同様とする。」旨規定していました。
このうち、3年は、消滅時効、20年は、除斥期間と考えられています。
(2)改正民法の規定
改正民法は、724条において、
「不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。」
旨規定しています。
このうち、3年は、消滅時効、20年は、除斥期間と考えられます。
また、民法724条の2において、
「人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「三年間」とあるのは、「五年間」とする。」
旨規定しています。
このように人の生命又は身体を害する不法行為については、消滅時効期間が5年間になりました。
5 まとめ
このように、民法改正は、交通事故の損害賠償実務に影響を与えます。
交通事故の損害賠償について、分からないことがありましたら、弁護士までご相談ください。
弁護士 寺部光敏
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